まふゆさんの今年の初仕事
このあいだ夏休みをもらったばかりなのに、もう年を越してしまった。
年末年始のおやすみが終わって、きょうは2019年初出社の日だ。
駅を出ると、とがった風がほっぺたに刺さる。
でも、名前のとおりさむい日に生まれたわたしには、むしむしした夏より、しんと冷えた冬の方がきもちいい。
のしのし歩いて、オフィスのあるビルについた。
入ったとたん、こんどはエアコンの、むっとにおう空気に襲われる。
全社で年明けの朝礼をして、次はさっそく今年ひとつめのミーティング。
マーケティング室の若手の伊織さんとふたり、秘密でもなんでもない話なので、休憩スペースにあるテーブルのはじっこをつかって、立ったままやることにした。
「まふゆさん、あけましておめでとうございます!」
「は~い~、おめでとうございま~す」
伊織さんの元気なあいさつに、へろへろの声で答える。
だめだ、だいぶ長いこと休んだから、仕事用の声がうまく出ない。
「年明けからすみません!
メールでもおつたえしたんですけど、これからブログの記事を書くことになったのでそのご相談です」
「ってことは~、伊織さんの、コーナー? ……ができるんですか?」
「いえ、わたしではなくって、コンサルタントの方とか開発の方とか、おもしろい経験がある人たちのお話を発信するんです。
みなさんに書いていただいてもいいんですけど、おいそがしい方ばかりなので、まずはわたしがインタビュー記事を書くことになりまして」
なるほど、なかなかたのしそう。
いろんな記事があるのがシナプスのブログのいいところだし。
「でも、インタビュー記事かあ~。……あれって、結構むずかしいですよね」
「そうなんですよ。だからまふゆさんにもインタビューに同席して、手伝っていただきたいなと思ってまして。
きょうは作戦会議させてください!」
インタビュー記事を作るとき、その場で話を録音しておいてそのまま書きうつす、なんてわけにはいかない。
お話してくれたひとの意図をこわさないようにしつつ、読みものとして1から組みたてていかないといけなくて、そこそこ手間がかかる。
それに、話をうまくすすめるための、インタビューそのもののテクニックもいるし。
お話をちゃんと理解するための最低限の知識もいるし。
伊織さんがつづける。
「今回はインタビューといっても、若手のわたしがベテランの方にいろいろ教わってそれをまとめるっていうイメージなので、ものすごくたいへんってわけではないと思うんですけど」
「あ~……、そういう感じのは確かに、うちその辺でよくやってますもんね。
ほらいまもああいう、あっちの丸テーブルとか」
ななめ前の、ミーティング用の丸テーブルで、若手の営業さんふたりがベテランプロジェクトマネージャーさんをかこんでいる。
モニターにうつしてるパワーポイントは、たぶん提案書かなにかだな。
お客さまがどんなことに悩んでいるのか、シナプスではどんなことができるのか、教わりながら書きすすめているんだとおもう。
開発の人たちも似たようなかんじで、誰かをかこんで勉強してるの、さいきんよく見かける。
「伊織さん、ああいうふうに人から教わるのとくいですもんねぇ。
とはいえ何もかも相手の方にまかせるのも失礼ですし……ちょっといっしょに考えましょうか」
ということで、企画の意図やらかんたんな質問項目やら、わいわいとメモにまとめてあっという間に10分ちょっと、とりあえずめどはつけた。
伊織さんはこの場を30分おさえてくれたけど、ミーティングはできるだけ短めがルールなので、これでおしまいかな……。
と思ったけど、やっと喉もなれてきたし、ひさびさに顔をあわせたし、ちょっとだけ余談。
「ほんと、伊織さんも連載もったらいいじゃないですか」
「いやどうなんでしょう、そこまではなかなか」
2017年に新人マーケターとしてシナプスにやってきた伊織さんも、次の春で入社3年目になる。
シナプスのブログがはじまったころ、わたしもちょうど入社3年目になろうとしていた。
社長の藤本さんはじめ、大先輩ばかりのブログメンバーのなかで、わたしはやっと会社のこと、仕事のことがわかりはじめたくらい。
不安できょろきょろしながら、とにかくそのまま、背のびせずに記事を書いていた。
それからいままでずーっと、新米の気持ちのままブログを続けてきたんだけど。
(まずい、伊織さんがきたら、とうとうそのスタンスやめないといけなくなる)
わたしの後に、もう何人も新卒社員が入ってきている。
丸テーブルについている営業さんも、そういえば後輩たちだ。
管理部門は開発や営業とちがって、1年ごとに新人さんが来るわけじゃないので、ぜんぜん意識していなかった。
大学時代の先輩とごはんを食べにいったとき、先輩、ワインを飲みながら言った。
もうわたし、大学生だった時間より社会人でいる時間のほうが長くなったんだよ、って。
聞いたときはびっくりしたのに、自分がそのタイミングを通りすぎたとき、ぜんぜん気づかなかった。
新米あらため若手の先輩社員になって、ふさわしい記事出せるかな、わたし……。
「……伊織さんごめんなさい、やっぱり連載はもうちょっと待ってください。
わたし、ちゃんと先輩になってからお出迎えするので」
「え、なんですかなんですか急に!」
とつぜん謝ったわたしに、伊織さんはあわてたみたいな口ぶりで言ったけど、顔はおもいっきりわらっている。
・・・
もう3年もブログを書いているのかと思うとびっくりです。
あのころと比べればわたしもさすがに成長していると思うのですが、落ち着きある大人はまだまだ遠いです。
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私たちは、製造業のためのソフトウェア開発会社、シナプスイノベーションです。
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まふゆさん
“まふゆさん”の中の人。
大阪オフィスの管理部門でこつこつ働きつつ、
ときどき社内ライター兼校閲ガールを務める。
本とお酒とNHK Eテレ「きょうの料理」が好き。