なぜわたしたちは年末に仕事をがんばるのか
12月がくると足が速くなる気がする。
寒いからあまり外にいたくないのもある。
そのうえ年末にかけての数週間、街は落ち着きをなくしているようで、空気に体が引っぱられる。
とくに今日は出社日で、オフィスでしかできないことぜんぶやって帰るぞと、あたたかい部屋についてもまだわたしの体は前のめりだ。
デスクワーカーがオフィスでしかできないこと、それはだいたい紙の扱い。
紙もハンコもぜーんぶムダ! とみる向きも昨今強くはなってきた。
当社はお客さまのペーパーレス化を支援し、本業にあたるチームは、それなりにペーパーレスだ。
でもなお、2021年末時点のバックヤードには、紙に印刷してハンコ押したものを原本あつかいで保管するように求められる書面があるのだからしかたない。
そのうえ、いくら紙であったって家のパソコンから見られないとどうしようもないので、それはそれとして電子ファイルもいる。しかたない。
2019年末とくらべれば小さくなったキャビネットの中に、2019年末とくらべれば少なくなった紙の束。
関係者が自分のタイミングで出社して自分のタイミングでハンコしてかえった紙の束。
ざばばばーとスキャナにかける。
「わ、まふゆさんそれぜんぶスキャンするんですか」
「はーい、複合機占拠してすみません!」
テレワークの日は沈黙と頭脳労働、オフィスの日はコミュニケーションと肉体労働と心得ている。
ぜんぶデータにできたら、パソコンの前に中腰で立って、大量のPDFにひとつずつ、ルールにのっとったファイル名を付与。
定められた電子フォルダに格納。
一部、年末までに他社の方にお送りしたいファイルもあるもので、これは特に注意してとりまとめ。
様式上の不備のないことをチェック。
年末まで。この言葉はどうしてこうもわたしを追い立てるのだろう。
12月28日を仕事上の「年末」とみなす。ということはできればクリスマスには仕上げたい。
ということは15日には、あらゆることに目途が立っていなければ。今日は8日。
余裕を持とうとして前だおしに前だおしを重ねる。わたしは遅刻がこわくて待ち合わせ場所に1時間はやく着くタイプだ。
すべてのPDFが正しくまとまった。すみやかに腰を伸ばし、こんどはまた紙の束に向き合う。
パンチで穴をあけ、あるいはクリアポケットに入れ、ドッジファイルに綴じ込む。
紙、1枚1枚はぺらぺらのくせに、まとまるとどうしてこうも重たいのか。
ともかくファイルを片付けようとさっきとは別のキャビネットを開ける。
どうやら棚がぱんぱんだ。いま綴じたファイル、むりやり押しこんで入るかどうか。
別の場所に運ばないといけないファイルも、そろそろ捨てていい紙も、さてはなんとなくここに残りっぱなしだな。
ふり向いて、オフィスにいる誰にむけてでもなく聞いてみた。
「この棚、いつ整理するんでしたっけ?」
何人かが顔を上げ、そのうちの誰かがふわりと言う。
「あー、年末までにはしないとですね」
6月中にはがお盆までにはになり、10月まで、とずるずる来たあと、最後に持ち出されるのが「年末まで」。
12月31日はわたしたちにとってどうしても「区切り」なのだ。
12月31日も1月1日もいつもと変わらずはたらく人が、世界にはたくさんいるのに。
この日が12月31日で年の終わりとする暦を採用していない人だっているのに。
とりあえずファイルは押せば入りそうなので、左手でとなりのファイルを押さえ、できた隙間に右手でぐりぐりねじ込む。
遠くのデスクから別の声が上がる。
「そういえばまふゆさーん、別件でこれもできれば今年中に確認していただきたい資料がありましてー、あとで相談いいですかーぁ」
「かしこまりましたーぁ、じゃあ14時半でどうでしょーぉ」
「できれば今年中に」がぽんぽん飛び交うのも年末の景色だ。
そして、気がつけば「できれば年内」があちらこちらに溢れかえり、「優先度つけようか」「これは来年にしよう」がなされる。
12月31日は区切りだけれど、あくまで自分たちのきめた区切りなので、勇気をもって無視されることもある。
時間もエネルギーも有限なのでそれは仕方がない。
ただし先送りは具体的に、かつ、責任を持って。
「じゃあまあ、来年で」とふんわり忘れてはいけない。年をまたごうが何をしようが、締切は「何月何日、何時まで」でないと。
そうこうしているうち、3月決算の当社では、あっという間に「年度末」がやってくる。
ドッジファイルは片付いた。キャビネットのとびらも無事閉じた。
(えーじゃあ次14時半打ち合わせで、そのまえにやれること、っと)
席に座りパソコンでチャットを開くと、少し目を離したあいだに赤い新規通知マークが5つひらめいていた。
プレビューに見えているテキストは、
「お忙しいところすみません」「先日の件ですが」「お伺いしたいのですけれど」「突然失礼します」「できれば年内に」。
区切りというのは要するにゴールで、ゴールが見えると人はつい走ってしまうのだ。
だから毎年12月になると、わたしたちは何となく足が速くなり、何となくたくさんの成果を積み上げてしまうのだ。
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まふゆさん
“まふゆさん”の中の人。
大阪オフィスの管理部門でこつこつ働きつつ、
ときどき社内ライター兼校閲ガールを務める。
本とお酒とNHK Eテレ「きょうの料理」が好き。