まふゆさんと、職場の中の小さな壁
つやつやの紙をプリンタにセットして、印刷ボタンを押す。
これだけで、二つ折り40ページの資料が40セットできる。
さいきんオフィスにやってきた大型プリンタ、折込もステープラーもしてくれて、たいへんかしこい。
おかげで資料のセッティングをだれかにたのむ必要がなくなった。
資料作りはプリンタにおまかせして、テーブルにもどる。
わたしの胸くらいまである背の高いテーブルで、椅子はもちろんあるけれど、きょうはかるいストレッチもかねて、立ったまま荷物をひろげる。
パソコンとノートとペンとふせんと、あと電話と。
わたしのはたらくシナプスイノベーション大阪オフィスは、大きく3つの区画にわかれている。
ここはそのうち中くらいの区画で、3分の2はおしごとスペース、のこりが休憩スペースになっている。
わたしがいま仕事道具をひろげたのは、ほんとうは休憩用のテーブルで、あと1時間もすると、みなさんがお弁当をたべるのにつかうところ。
そして目の前のおしごとスペースでは、特定のお客さま向けの開発をしている人、新製品の開発をしている人、営業さん、マーケティングチームなどなどがはたらいている。
さいきん、このテーブルで仕事をしてみることがたまにある。
シナプスのオフィスはフリーアドレスだけど、スペースや仕事のつごうもあって、それなりの定位置はできている。
わたしのばあい、管理系の部署のメンバーがあつまる部屋に、いつもの場所がある。
社長の藤本さんのいつもの位置ともちかくて、経営とか総務とか財務とか人事とか、そういう視点のはなしがよくきこえる。
ほとんどのメンバーが女性だし、外から出入りするのも男女問わずはっきりしゃべる人がおおいので、声のトーンは全体的に高め。
ところが、このテーブルで仕事をしてみると、耳に入るものがぜんぜんちがう。
いろんなお客さまの名前、IoTがどうこう、プログラムのはなしやテストのはなし(このあたりは半分くらい意味がとれない)、近々の納品のはなし。
男の人の声も女の人の声もやややわらかめ、というよりも正確には、いろんな職種の人がいっしょにいるからか、だれかひとりの声が部屋じゅうをつらぬくということがない。
おなじオフィスなのにぜんぜんちがうな、とおもう。
よい仕事をするために、人とのあいだに年齢や性別や職種や役職の壁をつくらないようにしましょう、と、シナプスでは考える。
だからたとえば、フリーアドレスやさん付けルールがある。
だけれどそれでも、いつも近くにいる人とそうじゃない人とのあいだには、やっぱり壁ができる、とわたしはおもう。
壁というか、うすい膜のようなもの。
ふだん関わりのない人と仕事をすると、あ、この人ものの分かりかたがちがう、伝えかたがちがうと感じる。
あたりまえだ、見えているものも聞こえているものもちがうんだもの。
ちがうのはいいんだけど、ちがう人がいることを忘れるのはこわいな、とおもう。
そういうわけで、たまにこうして、いつもとちがう場所で仕事をしてみる。
とくにここは、プリンタを使うついでにくれば、いきなり知らない人のとなりに座るのとは比べられないくらい気軽だし。
目のはしっこにプリンタを入れつつ、来週の会議の準備をすすめる。
だれになにをいつまでにたのむか、スケジュールを確認しながらノートにふせんでぺたぺたぺた……。
(……あ。これ、東京の開発の山田さんにいそぎで依頼しなきゃ)
ということは、東京オフィスに電話しないといけない。
電話。電話か……。
頭の中で、電話がつながったときの第一声、山田さんが席にいなかったばあいの対応、いたばあいのはなしの順序、ひととおりシミュレーションする。
(ふだんかけないところに電話するの、ほんとつかれる……)
でもこれは仕事、そして、オフィスのつくりすら思い出せない東京オフィスにふれること。
と、自分に言い聞かせて、電話をにぎる。
・・・
子どものころ、席替えとクラス替えがほんとうに苦手、かつ大嫌いでした。
おとなになったなあとおもいます。
(この記事は、当社の取り組みを元にしたフィクションです。
登場人物・エピソードはすべて、“まふゆさんの中の人”の創作です)
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まふゆさん
“まふゆさん”の中の人。
大阪オフィスの管理部門でこつこつ働きつつ、
ときどき社内ライター兼校閲ガールを務める。
本とお酒とNHK Eテレ「きょうの料理」が好き。